『二番はいない』
クンヤーイ(お婆さん) ウバーシカー(優婆夷)
チャン コンノックユーン
の生涯
法身に至る
リァップ婦人は、習慣として、クンヤーイ・トーンスック サッムデェーンパン先生という女性出家者を、自分の家に招いて、瞑想の指導を受けていました。
トーンスック先生は、ルァンプー・ワットパークナーム大師の、瞑想の優れた高弟として評価が高く、大師からタイ全土への布教活動を任命されていました。
チャンは、トーンスック先生が、自分の奉公先であるリァップ婦人邸に訪れる機会を、心を躍らせ待ち続けていました。
それは、トーンスック先生が、ルァンプー大師のように瞑想の達人であり、その指導法は評価が高く、是非、トーンスック先生の知己を得て、瞑想指導を受けたい、という願望を持っていたからでした。
しかし、自分の立場を考えれば、ただの奉公人である自分が、どうして、主人と同様に瞑想の指導を受けられるのか、と思い悩んでいました。
悩んだ末にチャンは、トーンスック先生が瞑想指導に訪れた度に、少しでも先生の関心を引こうと思い、先生に対するあらゆるお世話を、誠心誠意に勤めました。
これまでの家事の仕事だけでも重労働でしたが、トーンスック先生をお世話する仕事も増えたので、チャンの仕事量は、益々増え続けたのでした。
トーンスック先生が来訪のたびに、先生の衣服を洗濯し、アイロンがけした上で、綺麗に畳み込んだり、先生の休まれるベッドのシーツを、皺一つなくしたり、寝る時に使う蚊帳を、嫌な匂いがしないように気を配り準備したり、又、先生が喜ぶような食事も用意しました。
すべてが、トーンスック先生が自分に興味を持ってくれ、瞑想指導をして頂けるように、との思いからでした。
そのたゆまない努力は、無駄にはなりませんでした。努力の積み重ねが、トーンスック先生の心を動かし、チャンを非常に可愛がってくれて、大事にしてくれるようになって行きました。
ある日、トーンスック先生がチャンに向かい「瞑想を学んでみますか」と声をかけました。これを聞きチャンは、大喜びで即座に先生に答えました。「学びたいのですが、ご主人と一緒に瞑想するのは、許可が必要です」。
チャンを可愛がっていたトーンスック先生は、チャンのためにリァップ婦人から、一緒に瞑想する許可を取ってくれ、早速瞑想指導を始めることになりました。
この先生の瞑想指導法は、「心を身体の中心に留め、『サンマー・アラハン』を唱えなさい」というものでした。チャンは、この短い言葉を聞いただけで、心の底から喜びに満たされました。
チャンは、忙しい仕事の合間を縫って、この瞑想指導法を忠実に守り、実践しました。この結果、以前より仕事の成果も捗り、自分の時間が少しでもあれば、これを瞑想のために使いました。
しかし、奉公人の立場から、時間の余裕ができれば新しい仕事を次々と指示されるので、仕事の量は増えて行く一方でした。この増え続けた仕事も、誰からも文句ひとつも言われずに、完璧にこなしていきました。
これは、ひとえに、先生がリァップ邸を訪れたときに、瞑想指導を受ける時間がほしい、ためのものでした。
先生が訪れたときのリァップ邸での瞑想会は、屋上にある涼しい部屋で行われました。チャンは、どんなに仕事が忙しくても、これをすべて片付けた上で、どんなに遅い時間になっても、この部屋で一人で瞑想を行うことを、日課としていました。いつ、主人から呼び出しを受けるかも分からない、落ち着かない状況であっても、チャンは瞑想に励んでいました。
初めて瞑想したときには、両親や兄弟のことが懐かしく想い出されることや、早く法身に至りたい、と言う強い欲望などの、雑念ばかりが次から次へと湧き出しきて、頭が痛くなり、身体のあちらこちらも強張ってしまいました。
このことを先生に相談すると、先生は、チャンにこう教えてくれました。
「法身は、本当にあるものです。本気で瞑想に励めば、必ず至ります。この法身に至るための心は、冷静でなければなりません。雑念は、家を訪ねてくる、お客さんのようなものです。無視していれば、去っていきます。ただ心を、中心に留め続ければ良いのです。」
この教えを聞いて、毎日瞑想を続けている内に、叙々に雑念も少なくなり、ついには消えてしまいました。瞑想に慣れてくると、仕事中も心を中心に留めることが、容易になってきました。
このように、昼間の仕事中も心を留めることを忘れず、夜も欠かさずに瞑想を行って2年後に、ついに、仕事中に身体の中心から、非常に輝く法球が出現したのです。
その法球が見えたチャンは、「瞑想の初期段階でも、こんなに幸せを感じるなら、もっと深くなれる段階に至れば、どれほどの幸せを感じるのだろう。もし、誰かが、私と同じ重さの金と、見えた法球を交換してくれ、と言われても、絶対にしない。この世界には、人を助けられるものはない、仏法だけが、すべての人の拠り所となるのでしょう。」と喜びながら思ったのです。
この後、瞑想を始めると、身体の中がまるで空洞のように感じられ、身体が軽く心地よくなっていき、小さな輝く星のような一点が現れると、これに心を留め続けると、その中に入り込んで行きました。
ついには、毎日瞑想を続けていた屋上のこの部屋で、望み続けてきた法身に至ったのです。